展覧会概要
小松浩子は、写真において見過ごされてきた「物質性」を表現媒体として用いる制作を行ってきました。
壁のみならず床など展示空間全体を覆い尽くす小松の作品は、作品鑑賞における移動に伴い、床全面に敷き詰められた作品を否応なしに踏むという事態を生じさせます。このような体験は、写真の物質性と共に美術の展覧会において見過ごされてきた作品の「展示」と「保存・保護」といった矛盾した関係性を顕にしました。
今回の展示では、基本的に展示空間への入室を禁じて、展示場所の窓から作品を鑑賞するという発表形式を取っています。窓からは、出展作品である積み重なったロール紙が時間の経過とともに歪み、形を変えていくという変化を見ることができます。今回の取り組みは、「展示」と「保存・保護」といった矛盾した関係性を俯瞰する取り組みです。
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この度、金村修、小松浩子、篠田優による連続個展「error CS0246」を開催します。
いまだ終息の目処が立たない新型コロナウイルスは、私たちの日常生活に大きな変化をもたらしました。感染予防対策として、物理的な接触を避けるために築かれる〈壁〉の存在は、ボーダーレスを標榜して速度を求めてきたグローバリズムをそれ以前へと巻き戻そうとするものです。街の至るところで、密閉空間を避けること、集団にならないことなどの制限が求められ、感染予防対策の強化が続いています。一方、各所で導入されたテレワークは、自宅の部屋をオフィスにすることで、これまでのプライベート/パブリックという区分を曖昧にもしました。経済活動を維持するために推奨される野外での行動は、どこか矛盾をはらんだ空間を生んでもいます。
パンデミックの終息後も恐らくなくならないであろう、予防対策としての制限によって、社会には曖昧な状況が生まれ、人々の行動には矛盾が生まれ続けることでしょう。そうだとすれば、今後はそれらを内包した、ポスト・パンデミックの芸術を思索する必要があります。美術の展覧会においては、二律背反として扱われてきた「展示」と「保存・保護」という矛盾した関係性にも、「制限」と「曖昧さ」という観点をもって新たな光を当てることができるかもしれません。またパンデミック以後の制作は、必然的に異なるコードが組み込まれることによって、作家のスタイルそのものを変容させることにもなるでしょう。
本企画は、アフターコロナにおける美術の展覧会の在り方、創作の可能性とは何かを、これまで取り扱われていなかった部分の捉え直しから検討するという試みです。
― 岡田翔(キュレーター)
プロフィール
小松浩子 / KOMATSU Hiroko
写真家。1969年神奈川県生まれ。
第43回木村伊兵衛写真賞を受賞。
2010〜2011年、自主ギャラリー・ブロイラースペースを主催し、毎月個展を開催。
近年の展覧会として、「DECODE/出来事と記録−ポスト工業化社会の美術」(グループ展、2019年、埼玉県立近代美術館 / 埼玉)、「人格的自律処理」(個展、2017年、gallery αM / 東京、キュレーション:光田由里)、「The Wall, from 生体衛生保全, 2015」(個展、2017年、MAST / イタリア)などがある。
パブリック・コレクション
MAST(イタリア)、Tate Modern(イギリス)
Website
岡田翔キュレーション「error CS0246」
Vol.1 − 小松浩子個展「自己中毒啓発」
2021年1月7日(木)〜19日(火)
12:00〜20:00 ※水曜日休廊、最終日17:00まで