展覧会概要
喜多村みかは1982年福岡県生まれの写真作家で、2008年東京工芸大学院芸術学研究科メディアアート専攻写真領域を修了。
喜多村は主にスナップショットという技法を使用し、非常に身近でありながら少し距離感がある、どこともいえない世界を切り取ります。その様子は作家自身のというよりは作家の前に広がる風景の身じろぎのようであり、絶え間なく揺らぐ世界の隙を捉えたかのようでもあります。
今回発表される「TOPOS」は「VOCA展2019現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」において山峰 潤也氏(水戸芸術館現代美術センター学芸員)より推薦を受け出品され、大原美術館賞を受賞した作品です。
本作品で喜多村は、自身が中学生時代を過ごした長崎と、それまで直接的には縁のなかった広島を定期的に通い撮影しています。
そのある年、喜多村は長崎でも、広島でもない場所で平和記念式典のテレビ放送の様子を撮影。その写真を後日眺めていたときに感じた”遠くのどこか”を眺める行為について思いを巡らせたことが本作へと繋がります。
喜多村は、今、自身の写真について「すべての場所に言えるのは、そこは何かが起こった後であり、何かが起きる前だと。」と話します。そして自分自身がどこかの場所に思いを巡らせ続ける為の方法として、撮影を続けています。
喜多村が撮影した作品が、誰かにとっての”遠くのどこか”へと繋がることで、豊かな広がりを見せる本作品による場の記憶と気配をこの機会にどうぞご覧ください。
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中学時代を過ごした長崎を訪れて、はじめは自分の痕跡を辿るように、あてもなく写真を撮り始めた。間もなく、それまで直接的には縁のなかった広島にも足を運ぶようになり、それ以来、二つの街へ定期的に通って撮影をしてきた。
私は、普段写真を撮るときと同じように歩き、写真を撮りためていた。それが果たしてどこの街なのか、判別のつかないような写真も多くある。
作品にするかどうかをずっと迷いながらも撮影を続け、数年が経ったある年の8月6日と9日、私は広島と長崎のどちらにもおらず、テレビの中継を通して両方の平和記念式典の様子を観ていた。そして、カメラを向け、シャッターを切った。
暗い部屋にぼんやりとテレビの画面が浮かび上がったようなそれらの写真をあとで眺めていると、その場所にいなかったことや、画面を通して“遠くのどこか”を眺めていたことが、とても象徴的な出来事に感じた。自分が今いるところが、だれかにとっての“遠くのどこか”にもなり得ること。
以前、自分の写真について「何気ない風景は、それ自体が何気なく振舞っているわけではない」というようなことを書いたことがある。すべての場所に言えるのは、そこは何かが起こった後であり、何かが起きる前だと。
広島と長崎の現在を記録することは、ひとつには、自分自身がどこかの場所に思いを巡らせ続ける為の方法として捉え、撮影を続けている。
−喜多村 みか
プロフィール
喜多村 みか / KITAMURA Mika
1982年福岡県生まれ
2005年東京工芸大学芸術学部写真学科 卒業
2008年東京工芸大学院芸術学研究科メディアアート専攻写真領域 修了
個展
2017 | 「meta」(Alt_Medium / 東京) |
2014 | 「DEEP POOL GUIDE」(百年 / 東京) |
2013 | 「Einmal ist Keinmal / my small fib」 (テルメギャラリー / 東京、ブックスキューブリック / 福岡、Prinz / 京都) |
2005 | 「Einmal ist Keinmal」(ニコンサロン / 東京、大阪) |
主なグループ展
2019 | 「VOCA展2019 現代美術の展望 – 新しい平面の作家たち」(上野の森美術館 / 東京) |
2018 | 「あなた/わたし」(塩竈フォトフェスティバル2018、亀井邸 / 宮城) |
2013 | 「削ぎ落とす 〜Araki Shin Exhibition」(アノニムギャラリー / 長野) |
「SPACE CADET Actual Exhibition #2」(ターナーギャラリー / 東京) | |
2011 | 「The Color of Future〜たぐりよせるまなざし〜」(ターナーギャラリー / 東京) |
「老人と海」曽根崎アキノリ+喜多村みか(新宿プロムナードギャラリー / 東京) | |
「aspect」 赤羽佑樹+喜多村みか(STUDIO annex / 東京) | |
「TWO SIGHTS PAST」(ギャラリーアットラムフロム / 東京) | |
2008 | 「TWO SIGHTS PAST」(LUMEN GALLERY / ブダペスト・ハンガリー) |
「Helsinki Biennale 2008」(ヘルシンキ、フィンランド) |
主な受賞
2019 | 「VOCA2019」大原美術館賞 |
2006 | キャノン写真新世紀 優秀賞 喜多村みか+渡邊有紀「TWO SIGHTS PAST」 |
2005 | ニコンJuna21 |
Website
会期中イベント
●2019年11月3日(日・祝)に開催されたトークイベントのアーカイブは下記の三編です。
よろしければこの機会にこちらも御覧ください。
【登壇者】
喜多村みか(写真家)、山峰潤也(水戸芸術館現代美術センター 学芸員)、篠田優(Alt_Medium共催)
喜多村みか個展「TOPOS」
2019年10月31日(木)〜11月12日(火)
12:00〜20:00 ※水曜日休廊、最終日17:00まで