展覧会概要
篠田優は東京を中心に展覧会や作品集の出版を精力的におこなっています。写真作品だけにとどまらず、近年はその活動を映像作品の制作や上映へと広げています。
本展覧会「Garden | Medium」に出展される作品の構想は、篠田が2023年に逝去した写真家の飯田鉄から一箱のフィルムを譲り受けたことに端を発します。篠田はそのフィルムを使用して、同じく譲り受けた蔵書や、初めて交わした会話の内容でもあった南房総の土地を撮影しています。大判フィルムの密着印画によって黒い縁取りをもってあらわれるイメージは、生前に飯田が篠田に話した「庭」という写真のあり方を探求するものでもあります。それらを通じて篠田は、作品制作と切り離し難いコンセプトというものを、想いに形式を与える行為として、とらえなおそうと試みているのです。
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飯田さん
以前にいただいたフィルムで、本と島の写真を撮ることにしました。
期限の切れたシノゴのTri-X、50枚入りがひと箱。だからそれぞれを25枚ずつ撮ろうと思います。そしてその枚数でシリーズを終えようと思います。
被写体にする本は飯田さんに譲っていただいたものの中から、あまり考え込まずに、選んでいます。三台の本棚に収まったそれらのうち、読み切れたものはまだ多くありません。でも、飯田さんが長いあいだ集めつづけたものですから、それも当然かもしれませんね。これから僕も時間をかけて読んでいこうと思います。
南房総の島を撮ることは、飯田さんとAlt_Mediumで初めて交わした会話から思いつきました。覚えていますか。「球体上の点列」展の搬入日、用事のためにすこし遅れてギャラリーに到着した僕に、写真集『Recordare』の1ページを示しながら、「篠田さん、ここがどこかわかる?」と話しかけてくれたことを。初めて会ったにもかかわらず、飯田さんの悪戯っぽい笑顔と声の調子は、僕がその土地の名前を正しく答えることができると思っているようでした。わかってよかったです。なぜなら僕も、その土地を写真に撮っていたから。以前につくった小さな冊子にはその写真を、地名を添えて載せていました。きっと、ギャラリーにあったそれをすでに見ていたので、飯田さんはあえて僕に聞いてみたのでしょうね。
僕にとってこのふたつの被写体は「庭」と結びついています。以前にお話を聞いたときに、写真を並べて「庭」をつくっていると、飯田さんは言っていましたね。それ以来、僕にとって飯田さんは「庭師としての写真家」です。そういえば、わずかな部分を残して周囲のほとんどが海に囲まれている島は、ある意味で、庭のように見えますね。あの土地への愛着の一端はそのようなところにあったのでしょうか。そして、建築や短歌、美術や町の歴史、文学など、多岐にわたる興味で結ばれた蔵書の数々は、飯田さんの内にある庭をかたちづくっていたのでしょうか。50枚の写真は、飯田さんが展覧会に付していた「庭園試論」という言葉に対する僕なりの応答になればいいなと思っています。そして、それは同時に、写真と写真家、写真を撮ることへの「試論」であるのかもしれません。
− 篠田 優
プロフィール
篠田 優 / SHINODA Yu
1986 長野県出身
現在 神奈川県在住
2021年、明治大学大学院 理工学研究科 建築・都市学専攻総合芸術系 博士前期課程 修了
個展
2024 | 「Fragments of the place 2017-2019」(photographers’ gallery / 東京) |
「Fragments of the place 2017-2019」(kanzan gallery / 東京) | |
「Fragments of the place 2017-2019」(photographers’ gallery / 東京) | |
2023 | 「Medium」(NADiff a/p/a/r/t / 東京) |
「Long long, ago」(photographers’ gallery / 東京) | |
「松代・風景」(サードディストリクトギャラリー / 東京) | |
2022 | 「on the record | 海をめぐって」(Alt_Medium / 東京) |
2021 | 「有用な建築」(表参道画廊 / 東京) |
「ひとりでいるときのあなたを見てみたい」(Alt_Medium / 東京) | |
2020 | 「抵抗の光学」(リコーイメージングスクエア東京 / 東京) |
「on the record|建築とその周囲」(Alt_Medium / 東京) | |
「Wakes」(表参道画廊 / 東京) | |
2019 | 「Wakes」(ととら堂 / 神奈川) |
「text」(Alt_Medium / 東京) | |
2018 | 「航跡図」(Alt_Medium / 東京) |
「Voice(s)」(からこる坐 / 長野) | |
2017 | 「See/Sea」(大阪ニコンサロン / 大阪) |
「See/Sea」(銀座ニコンサロン / 東京) | |
「ひとりでいるときのあなたを見てみたい」(Alt_Medium / 東京) | |
「写真へのメモランダム」(Alt_Medium / 東京) | |
2016 | 「Medium」(trace / 京都) |
「Medium」(ビルドスペース / 宮城) | |
2015 | 「Medium (six or forty photographs)」(平間写真館TOKYO / 東京) |
主なグループ展
2023 | 「paper company Book Exhibition Vol.1」(金柑画廊 / 東京) |
2022 | 「朔太郎と歩く」(Gallery ZERO / 神奈川) |
2021 | 「from Intimate Path」(ART369space / 栃木) |
2020 | 「Imshow」(Alt_Medium / 東京) |
2017 | 「信濃美術館クロージング ネオヴィジョン新たな広がり」(長野県信濃美術館 / 長野) |
2016 | 「(PERSONAL)DOCUMENTS PROJECT」(Gallery Sijac / 韓国) |
受賞歴
2013 | 「塩竈フォトフェスティバル写真賞」大賞 |
東京工芸大学写真学科賞 | |
2012 | 「EINSTEIN PHOTO COMPETITION X2」岩渕 貞哉賞 |
助成
2023 | 公益財団法人小笠原敏晶記念財団「2023年 調査・研究等への助成」採択 |
2021 | 日本美術家連盟「美術家のための支援事業」入選 |
出版
2024 | 『Fragments of the place 2017-2019』(喫水線) |
2023 | 『循環』(私家版・林朋奈と共著) |
2021 | 『ひとりでいるときのあなたを見てみたい』(paper company) |
2020 | 『二つの半島に関するメモランダム(2015-2020)』(sign and room) |
2015 | 『Medium』(塩竈フォトフェスティバル) |
Website
篠田 優個展「Garden|Medium」
2025年1月17日(金)~1月29日(水)
12:00〜19:00 ※木曜日休廊、最終日17:00まで