
展覧会概要
本展は、故郷である足尾銅山の情景を長年にわたって記録してきた中から、昨年の「ASHIO 2008/2009」に続く初期の作品として、2010年・2011年に撮影した写真で構成いたします。
足尾は、かつて日本有数の銅山として栄えた歴史とともに、公害という負の側面も深く刻まれた場所です。私にとってこの地は、そうした公の歴史と、自分自身の個人的な記憶や時間が重なり合う場所でもあります。煙害により岩肌を晒した山々や、閉山後に朽ち果て草木に覆われた社宅、鉱山施設の廃墟。それらを15年以上にわたって繰り返し撮影する中で、この地が歩んできた歳月の重みや人々の営み、そして現代の日本が直面する現実を静かに見つめてきました。
本シリーズは、今後も数年分ごとの作品を順次展示していく予定です。私が見つめてきた足尾の風景を通して、過ぎ去った時間、あるいはその先に続く何かを、それぞれの心で感じ取っていただければ幸いです。
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足尾――忘却と尊厳の地層
栃木県の北西部、現在は日光市の一部となった足尾。かつて私が幼少期を過ごした場所である。
記憶にある足尾は、閉山という大きな転換点を経ながらも、観光の町として新たな道を模索していた。まだ人の気配があり、町にはかすかな熱が残っていた。しかし、その賑わいもいまでは遠い過去となり、足尾は限界集落へと近づく静かな衰退のなかにある。
いま改めてこの土地を歩くと、そこに広がっているのは、人々の営みが去ったあとに残された深い静寂である。山肌に残る傷跡、朽ちた建造物、役目を終えた設備群。それらは風景としてそこに存在しているだけでありながら、この土地が背負わされてきた歴史を沈黙のうちに語り続けている。
かつて足尾銅山は、明治日本の近代化を支えた巨大鉱山であった。明治政府の殖産興業政策のもとで大量の銅が採掘され、日本の産業やインフラ整備、さらには軍需産業を支えていった。その一方で、山林伐採や煙害、鉱毒によって自然環境と人々の暮らしは深く傷つけられ、日本最初の大規模公害とされる足尾鉱毒事件を引き起こした。
田中正造は被害農民とともに抗議を続けたが、政府は銅の生産を優先し、被害は地域住民へ押し付けられていった。さらに戦時体制が強まるなかで、足尾は国家総動員体制へ組み込まれ、多くの人々が過酷な労働へ動員された。公害、環境破壊、労働動員――それらは、国家と産業の発展の裏側で積み重ねられてきた歴史でもあった。
山々に残された煙害の痕跡や堆積場、そして鉱毒問題の記憶はいまも消えていない。
この土地には、近代化の下で切り捨てられてきた無数の生の痕跡が沈殿している。残された遺構は、その記憶を内包したまま、いまも沈黙のなかに横たわっている。
― 久保田智樹
プロフィール
久保田智樹 / KUBOTA Tomoki
1967年 栃木県足尾町(現・日光市)生まれ
1991年 埼玉大学工学部卒
個展
| 2025 | 「ASHIO 2008/2009」(Alt_Medium / 東京) |
| 2022 | 「ASHIO」(IG Photo Gallery / 東京) |
出版
| 2025 | 『ASHIO 2008/2009』(襤褸書房) |
| 2023 | 『山静まりて』(襤褸書房) |
| 2015 | 『ASHIO』(RED STREAM PHOTOGRAPHY) |
https://www.instagram.com/kubotatom
そのほかお知らせ
ZINE『ASHIO 2010/2011』を会場にて先行販売します。
〔仕様〕
発行:襤褸書房(RANRU BOOKS)
判型:A5
価格:1,500円(ミニプリント付き)
部数:200部限定
久保田智樹 写真展「ASHIO 2010/2011」
2026年6月5日(金)~6月10日(水)
12:00〜19:00 ※最終日17:00まで

