展覧会概要
田近夏子は1996年生まれ岐阜県出身の新進作家です。
田近は東京工芸大学芸術学部写真学科在籍中に、塩竈フォトフェスティバル2018に於いて本作「二度目の朝に」で写真賞大賞を受賞しました。
この度開催される同タイトルの展覧会は田近による初の個展となります。
また、会場では塩竈フォトフェスティバル写真賞大賞の副賞によって制作された初の写真集を発売いたします。
夏が始まるころ愛犬が亡くなったお風呂場は、奇しくも田近が3歳の頃に目の前で亡くなった祖父の最後と同じ場所でもありました。
愛犬の死を知らせる母からの連絡により、幼い頃の曖昧な記憶と今回の出来事が“お風呂場”を通して交わるように感じたと、田近は語っています。
本作からは身近なものを失っても流れゆく日々の中で、ふとした瞬間に、たゆたう記憶のきっかけを掴み取るような眼差しを感じさせます。
この機会にどうぞご高覧ください。
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二度目の朝に
夏が始まる頃、実家の愛犬が亡くなった。
息を引き取った場所はお風呂場。
其処は3歳の私の目の前で祖父がなくなった場所だった。
前日までいたその場所から連絡がはいる。
「30分ほど前になくなりました」。
母からのメールをみたその時、幼い頃の曖昧な記憶と今回の出来事が、
このお風呂場を通して重なり交わっているように感じた。
お風呂場の湿気を帯びた空気の中でシャッターを切っていると、
晴れた太陽の下にいるときよりも、ペタペタとした感触が生と死を身近に思わせた。
日常の中で水気を感じる部分を捉えていくと、
蛇口から水があふれるように、川が上流から下流へと他流れていくように
日々が過ぎ去っていき、今回の出来事も遠ざかっていく感覚があった。
これまで生きてきた時を一本の線とするならば、その線はゆっくりと進み続けている。
私は着実に前へ、進む線の先へと流されている。
この出来事は私から遠のいていくが、祖父のことを思い出したように、
いつだって記憶がよみがえるような一本の線上にある。
決して消え失せたわけではなく、いつまでもそこに留まっている。
―田近 夏子
プロフィール
田近夏子 / TAJIKA Natsuko
1996年生まれ、岐阜県出身。
2019年東京工芸大学芸術学部写真学科 卒業
2018年に開催された塩竈フォトフェスティバル写真賞に於いて大賞を受賞。
2020年自身初となる写真集『二度目の朝に』を塩竈フォトフェスティバルより刊行。
その他
田近夏子個展「二度目の朝に」のために事前に行われた、田近夏子と篠田優によるインタビュー記事はこちらでお読みいただけます。
田近夏子個展「二度目の朝に」インタビュー
田近夏子個展「二度目の朝に」
2020年9月24日(木)〜10月6日(火)
12:00〜20:00 ※水曜日休廊、最終日17:00まで