横澤進一 個展「クサビノ」

2021年4月1日(木)~13日(火)

展覧会概要

横澤進一は、個展やグループ展、写真集など精力的に発表を続ける写真家で、近年では写真家や画家によって構成されるグループ「FŪKEI」としても展示や出版など幅広く活動しています。

また、横澤はスナップ写真を主としながらも、猫を被写体に捉えた写真の評価も高く、日本人写真家による猫をモチーフとした写真を集め、Ibasho Gallery(ベルギー)など世界各地を巡回展示した「Neko Project」で最優秀賞を獲得するなど、評価を高めています。

本展覧会は2011 年に銀座ニコンサロンで開催された『煙野』以来、1 0 年ぶりの個展となります。生まれ育った埼玉を中心として、ひたすら歩き、撮る。横澤のそうした撮影プロセスは、カメラを手にした初めより一貫して変わることなく、本展で発表される近作においても続けられています。極めてストレートな表現でありながら、遠近感が消失したようなその画面は、そこに写る個々の要素が緊密に結合して生まれた、名付けがたいひとつの像が立ち現れているかのようです。

極めて具体的でありながら、見る者の内に抽象的なイメージを呼び起こすような写真群を、この機会にぜひご覧ください。

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「震災の最中、海までは程遠い埼玉の病院で父が亡くなった。病室のテレビからは飲み水の確保を促す映像が繰り返し流れていた。父は胸水が貯まりはじめた体で、その呼びかけに反応していた。私は被災地のことなど何も考えられないまま、こんなときに起きた地震に只々苛立っていた。」

横澤進一の写真集『Ar』で、写真の間にときおり挟み込むように記されている、幾つかの文章の内の一つである。
水を媒介として、災禍としての欠乏と充溢が、なんともやりきれない形で、関係を結ぶ。

この言葉と切り離して考える必要もないだろうが、横澤の写真には水が頻繁に写り込む。微小な藻類にびっしりと覆われた水。様々な色の空をその表面に湛えた水。来し方もわからない、雑多なものを浮かべた水。濁った水。横澤の撮影地は、カメラを手にした頃から変わらず、生まれ育った町の辺りであるという。なぜ幾度となく見知ったはずの川辺を歩むのだろうか。

横澤の写真には俯瞰で捉えられたカットが多いように感じる。それは粒子のように光をちらつかせる川面や、芝生を白く断ち切るような道、尻尾を切断されて転がる(死んでいるのか?)トカゲなど。明らかなバニシングポイントへと収斂されないその画面は、それゆえにモノ同士の奥行きを曖昧にし、見る者の視線を画面上に惑わせる。その結果として立ち上がるのは、草や石や空き缶、そして水面としての空が癒着接合したような、一枚の、名指し難いイメージだ。

そうしたイメージを現出させるために、水は視覚上で一翼を担っている。そこに浮かぶモノたちの隙間を均一に満たすものとして。または、ニスのような光沢で者たちを被覆ものとして。

だが、もしかしたら、このような役割をもつ水の、写真というメディウム自体の在り方に対して持ち得る、アナロジカルな関係を、これらの写真から指摘することができるのかもしれない。どのような材質も、どのような事態も、フレームによって境界づけられた一枚の画像へと変えてしまう、透明だったり濁ったりする、媒質。

横澤の、繰り返される川辺への移動は、「写真への旅」という言葉を思い起こさせる。

―篠田 優(Alt_Medium)


プロフィール

横澤進一 / YOKOZAWA Shinichi


個展

2023「煙野」(銀座 ニコンサロン / 東京)

グループ展

2019「Neko Project」(IBASHO GALLERY / ベルギー)
「FUKEI」(Alt_Medium / 東京)
2017「Never Understand」(HAGISO / 東京)
2014「リフレクション」(Place M / 東京)
2011「フウケイ」(UP FIELD GALLERY / 東京)
2010「ながめる まなざす」(UP FIELD GALLERY / 東京)
「parapet show similis」(CASHI / 東京)
2009「parapet show」(AISHO MIURA ARTS / 東京)
「川口百景」(art gallery ATLIA / 埼玉)

出版物

2020『クサビノ』(FŪKEI)
2019『Ar』(FŪKEI)
『GA TO Sí ?』(FŪKEI)
2013『暗渠』(私家版)
2010『眩砂』(私家版)
2009『蝙蝠の姿勢』(私家版)
『SPRAY CATS GARDEN』(私家版)

受賞

2019「Neko Project」最優秀賞    

Website

https://yokozawaprint.tumblr.com


その他

横澤進一 個展「クサビノ」のために事前に行われた、横澤進一と篠田優によるインタビュー記事はこちらでお読みいただけます。

横澤進一 個展「クサビノ」インタビュー

前編】【後編


横澤進一個展「クサビノ」

2021年4月1日(木)~13日(火)
12:00〜20:00 ※水曜日休廊、最終日17:00まで


【お問い合わせ】

〒161-0033
東京都新宿区下落合2-6-3 堀内会館1F
JR高田馬場駅徒歩7分(下落合二丁目歩道橋そば)
2-6-3, Shimoochiai, Shinjuku, Tokyo, 161-0033

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