展覧会概要
一人では生きていけない集団生活の習性を持つ人間にとって「他人」との繋がりは、生の根本的なモチベーションであると同時に、すべての感情の源であるに違いない。「他人」との繋がりを構成する最小単位でありながら究極的な目的地として、私たちは「家族」のことを考える。
本展覧会に出展する3人のアーティストはそれぞれ、日本と韓国で90 年代初期に生まれ育ったクィア当事者という共通点を持っている。3人は生きてきた環境は違うものの、クィア・カルチャーにおいて保守的と言われる東アジアで、自身をクィアとして認識した過去の経験を共有している。さらには、結婚適齢期を迎え、周りの友人から結婚の知らせをよく耳にする歳になったにもかかわらず、未だに社会のシステムから恵まれず、結婚とは縁遠い生活を強いられる現実も共有しているのだ。
夫になること、お父さんになること、気の置けない人と共に暮らし「家族」を持つこと。これらの極めて素朴な願いに違和感を感じざるを得ない社会の中で、私たちはこの共通意識を何らかの「形」に移す実践を試みる。これは一人のアーティストである以前に、一人の人間として、悩み続けた過去から新たなライフステージに上がってゆく記録とも言える。
毎年東京で行われるプライドウィークの時期に併せて開催されるこの展示は、彫刻、写真、ドキュメント映像などの多様なメディアを用いて構成される。それぞれが思い描く「家族」の在り方を芸術的な想像力で表現し、「近代家族」イデオロギーを強要される社会の中でクィア・アイデンティティーが発現・適応する過程やその可能性を示す場にしたい。
映像作品鑑賞に関する案内
ホン・ミンキの映像作品の上映スケジュールは下記の通りです。
(1日8回、上映時間約40分)
12:00〜|13:00〜|14:00〜|15:00〜|16:00〜|17:00〜|18:00〜|19:00〜
プロフィール
パク・サンヒョン|Sanghyun Park
1991年ソウル生まれ
2016年ソウル大学 美術大学 彫塑科卒業
2016年ソウル大学 人文大学 アジア言語文明学部 日本言語文明専攻副専攻
2020年東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻修了
現在、東京藝術大学芸術情報センター 教育研究助手
プロフィール
寺田 健人|Kento Terada
1991年沖縄県生まれ
2017年沖縄県立芸術大学 美術工芸学部 芸術学専攻卒業
2019年東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻修了
2014年第1回WORKSHOP フォトネシア写真学校ポートフォリオレビューにて審査員賞( 森栄喜選)
現在、東京藝術大学先端芸術表現科 教育研究助手、京都造形芸術大学通信学部写真コース 非常勤講師
プロフィール
ホン・ミンキ|Minki Hong
1992年ソウル生まれ
2016年ソウル大学 美術大学 彫塑科卒業
2017年The 17th Seoul International NewMedia Festival, Glocal Propose X Best Propose 受賞
2021年韓国芸術総合学校 マルチメディア映像科在学
その他イベント
展覧会特設WEBサイトにて、4月29日から1ヶ月間、各作家のトークの動画が配信されます。
また、動画は配信終了後も今回展覧会のために制作された冊子に記載されているQPコードにアクセスすることで継続してご覧いただくことが可能です。
詳細
https://realizing-humanness.webflow.io
1. 「家族写真」は完璧なもの?|久保豊 × 寺田健人
CMやアニメ、映画など私たちの身の回りには家族の表象が溢れています。また、「家族写真」は写真機が発明されてから今日に至るまで、世界中の人々によって撮られ、家庭内部から家族の表象を生産しています。このような家族表象から私たちはどのような影響を受けてきたのでしょうか。戦後日本映画やホーム・ムービーを専門に研究されている久保豊さんをお招きし、日本における「家族写真」の影響やその限界についてトークを行います。
2. これからの家族のあり方について〜家族法の観点から〜|松田和樹 × パク・サンヒョン × 寺田健人
日本では2015年、渋谷区の「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を皮切りに、同性パートナーシップ証明制度が全国に広がっています。しかし、家族として法的に認められてこなかった人々はそれによって様々な問題を抱えており、パートナーシップの更なる展開、あるいは別の方法での「共同体」が必要なのではないでしょうか。これからの家族のあり方について、家族に関する法律を専門に研究をしている松田和樹さんを招いてクロストークを行いパートナーシップ制度、婚姻制度の限界や別の家族形態の可能性を探ります。
3. 韓国の家族主義とクィアードキュメンタリー映像表現について|キム・ギョンムク × ホン・ミンキ
2000年代初期から多数の作品を発表してきた映画監督、キム・ギョンムクさんを招いて、ホン・ミンキさんと対談を行います。ホン・ミンキさんの作品を中心に、韓国社会特有の家族主義的な文化の中でクィア当事者として思うことや、それを作品にすることになった経緯について話します。さらに、ホン・ミンキさんの映像で観られる3D 及び仮想現実を用いた表現法についてより深く話してもらい、ドキュメンタリー映像としての表現の可能性を探ります。(日本語字幕)
企画
パク・サンヒョン
出展作家
パク・サンヒョン / 寺田健人 / ホン・ミンキ
デザイン
王俊凱
助成
藝大フレンズ賛助金、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
協力
東京藝術大学 芸術情報センター
観覧料
無料
Website
https://realizing-humanness.webflow.io
https://www.instagram.com/realizing_humanness/
お問い合わせ先
park.sanghyun@noc.geidai.ac.jp
「人間臭さを勝ち取るための実践」
パク・サンヒョン|寺田健人|ホン・ミンキ|
2021年4月29日(木)〜5月10日(月)
12:00〜20:00 ※5月6日(木)休廊