impersonation
到着したら、とりあえず駅前のありふれたカフェに立ち寄り、温かいものを飲む。
温かいものを飲んでいるうちに、少しずつ街に馴染んでいくような気がするのだ。飲み終える頃には、私はその街の住人が着ているような空気をまとう。そして、あたかもその街の住人のような顔をして街を歩きだす。
その街に住んでいないと歩かない路地に迷い込んでみる。というよりも自ら街に迷いに行く。温かいものを飲みながらまとった街の空気は、「近所に住んでいそうな人」もしくは「新しく越してきたかもしれない人」といった立ち位置を演出する。
時折、人に見られている気配を感じて振り返ってみると、人ではなく猫に見つめられて ことがある。猫に見つめられていると思って振り返ると、そこには誰もいない。そこにあるのは物だけで、気配を探してあたりを見回すが、人影も動物の影も見えない。
そこに誰かがいたのかもしれない。しかし、その気配だけが私に触ってくるのである。そして、こちらを向けと囁くのだ。
そのうち自分がどのあたりを歩いているのかわからなくなり途方に暮れる。どこかにランドマークとなるようなものが見えるのではないかと遠くを見つめるが、新しいのか古いのかわからない街並みが、ただ続いているだけだ。そこから、どこにあるかもわからない駅を探しながら再び歩き出す。
いつの間にか大きな道路にたどり着き、スタートした駅とは違う見知らぬ駅につく。家々とビルと空き地が連なっている道を歩いたということだけは覚えているが、どこをどう歩いたらこの駅につけたのか皆目見当がつかない。
そして、いつの間にかまとっていた空気は薄れ消え、異物となってホームに立っていた。
2022年4月吉日 片柳拓子
プロフィール
片柳拓子 / KATAYANAGI Takuko
文化女子大学(現:文化学園大学)造形学部 生活造形学科 工芸コース 金工専攻卒。
金村修ワークショップ、タカザワケンジゼミ(カロタイプ)受講。
個展
2021 | 「possession」(IG Photo Gallery / 東京) |
出版
2021 | 『filling-in』(私家版) |
2020 | 『Sensation Potential』(私家版)、ほか |
Website
https://takukatayan.wixsite.com/top-takuko
https://twitter.com/takukatay4
https://www.instagram.com/takupo3915/
片柳拓子 展「impersonation」
2022年4月8日(金)〜20日(水)
12:00〜20:00 ※木曜日休廊、最終日17:00まで