2024年4月17日
「鳥とクジラ」
十月、長崎に住んでいる辻原の所に遊びに行った。
以前訪れたのは7年ほど前の夏になる、その時はライギョ釣りやら何やらをして遊んだ(ライギョは釣れなかった、蒸し暑かった。
また遊びに行きたいと思っていたが、中々機会が無かった。
久しぶりの辻原のアトリエの外に小さな畑が出来ていた、猪に荒らされて大変なこともあったらしい。
辻原の作品を見ながら絵の話をしたり、コーヒーを飲んだり、ギターを弾いてみたり、タバコを吸ったりして過ごした。
辻原が一枚の大きめのキャンバスを出してきた。
「一緒に描いてみない?」
それから三日間ほど一緒に絵を描いた、最初はお互い交代交代で手を入れていき、最後は同時に描いていた。
不思議な時間だった、自分以外の人間が目の前で絵を進めてくれている、楽でいい。
誰かと一緒に一枚の絵を描いたのは初めてだろうか。
美術予備校の頃にデッサンに先生が手を入れるのはカウントするべきだろうか。
学校の文化祭の出し物の為の看板をクラスメイトと描いた気がするが、はっきりとは覚えていない。
幼稚園の頃誰かと一緒に迷路を描いた気がするが、これもはっきりとは覚えていない。
他人の描いている絵というのは、とてもプライベートなもののようで、普通は手が出しづらいし、出してはいけないものの様な気もする。
「私の場所」という区切りの様なものを忘れて、抽象的な色や線、時にはモチーフなどを使ってコミュニケーションをしている様な、非言語的で、原始的な感覚。
その時間が生んだ何か。
長崎から帰り暫くして、二人で絵を描いた時のことを何となく思い出していた
海面を境に、空と海に生きる鳥とクジラの姿が頭に浮かんだ。
理由はよくわからない。