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2022年1月19日

篠田優 写真展「on the record | 海をめぐって」

展覧会概要  篠田優は東京を中心に、展覧会や作品集の出版など精力的に活動する写真家です。太平洋戦争時代に建設された遺構や、取り壊しを控えた公共建築などを主な被写体として、大判フィルムカメラや4K動画による精緻な描写によって、記録性と表現性を兼ね備えた写真・映像作品を制作しています。 本展覧会では、篠田が現在まで継続している東京湾沿岸に取材した写真や映像を組み合わせて発表します。篠田は2015年から、三浦半島と房総半島という東京湾を形成するふたつの土地の沿岸部に残された遺構を訪ね歩き、写真に記録するプロジェクトを現在まで続けています。その被写体の大半が太平洋戦争末期に掘削された壕であり、作者はその内部に残された往時の掘削痕や開口部から見える現在の光景を写真に捉えてきました。 また同時に篠田は、そうした壕や砲台といった遺構、そしてその周囲の様子を高精細な動画で撮影した映像作品も制作しています。そこでは、かつての軍事的な施設が観光地へと変貌したり、草生したりして日常の景色の中へと埋もれている様を客観的に見て取ることができるでしょう。 さらに近年では、京浜や京葉の工業地帯における汀に着目して写 […]
2021年12月7日

鼻崎裕介 個展「東京日日」

展覧会概要 鼻崎裕介は1982年和歌山県出身の写真作家です。2007年に東京ビジュアルアーツ写真学科を卒業、独立後は2011年〜2019年 ギャラリーニエプスメンバーとして活動し、『City Lights』(ふげん社、2018年)を上梓しました。 本展覧会で発表する作品は鼻崎が2013〜2021年に東京を撮影したカラーのストリートスナップです。東京と大阪を2部構成でまとめた自身初となる写真集『City Lights』を経て、このコロナ禍で思うように街で撮影ができない中で改めて自らの写真を見つめ直し、それらに2018年以降に新たに撮り下ろした作品を合わせて構成した「東京日日」を発表いたします。 コロナウイルスの蔓延によって様々な行動が制限された中で、今までは気づかなかった普段の生活の豊かさと、非日常さをお楽しみいただけます。
2021年11月23日

岩崎美ゆき 写真展「折りたためる海」

展覧会概要 写真家の岩崎美ゆきは東京を中心に活動し、近年は新作による展覧会の開催を着実に重ねています。 本展覧会は2019年の「この海は、泳ぐためではありません」から数えて3回目にあたるAlt_Mediumでの個展となります。 岩崎の作品はデビューより一貫して、直裁に風景を写しとる硬質なストレートフォトグラフィーによって構成されています。深い被写界深度で撮影された写真は、画面の隅々までピントが合うことにより、かえってそれを見る者の眼差しを画面上に彷徨わせるようです。 また同時に、そのようにして撮られた岩崎の写真には、耳目を集めて特別に名指される土地や景観というよりも、普段には人々が何気なく通過してしまうような光景が写し留められています。 本展覧会に寄せた文章からもわかるように岩崎は、写真が作者の内的なイメージの等価物へと収斂されることに抗い、それらを一種の開放的な「場」のようなものとして存在させることを試みているのです。 平明でありながら、それゆえに言葉しがたい深みを感じさせる写真群をこの機会にぜひご覧ください。 === 見えているのに理解できないものへの畏怖。見えているのに意識にのぼ […]
2021年11月16日

田川基成 写真展「NAGASAKI SEASCAPES」

展覧会概要 長崎県の離島出身の作家・田川基成は、自身のルーツとその後の移動や旅の経験を通し、移民と文化、土地と記憶、信仰などに関心を持ち写真作品を制作してきました。2016年頃から故郷・長崎に目を向けて撮影を続けるシリーズは、展覧会「見果てぬ海」(2020〜2021)や写真集『見果てぬ海』(赤々舎、2020)として発表されています。 本展では、未発表の新作写真から、長崎の海岸と島々を巡り撮影された海の風景=SEASCAPESを主題とし構成されます。作家は4年ほど前、幼少期より遠く西の海の向こうに眺めていたという五島列島の無人島に、海を渡って初めて訪れることになりました。その島の高台から見た光景は、遠く東の海に自身が育った島を見渡すことができ、「風景が反転してしまった世界、あるいはパラレルワードに渡って来たかのような不思議な知覚」を得たのだと言います。同時に田川は、「海の向こうを見る者はまた、海の向こうからも見られていた」という事実にも気がつき、以来、そのことを意識しながら撮影を行ってきました。また、約600もの離島が存在する長崎の海は、間に海を挟んで「見る、見られるを延々と繰り返す環世 […]
2021年11月9日

山崎雄策個展「白い施設」

展覧会概要 山崎雄策はTOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD #4準グランプリ(飯田志保子賞、濱中敦史賞選)や写真新世紀2014優秀賞(清水穣選)など多くの受賞を重ね、その作品発表において常に耳目を集める気鋭の写真家です。 本展覧会「白い施設」は山崎にとってAlt_Mediumでの3年ぶり2回目の個展となります。Alt_Mediumにおける2018年の個展「さかしま」での出展作をきっかけとして山崎は「造花」という存在に着目し、本展覧会にはその関心のもとに制作された作品が並びます。 造花とは人々のまなざしに供せられるために存在し、あくまでも生花の代用でありながら、レンズを通したその姿はまるで生きているかのように見えることさえあります。 山崎はキャリアの初期から、デジタルとアナログを自由に行き来し、様々な技法を用いつつ、写真のもつ真実性を逆手にとるように、虚実の曖昧な対象を画面上につくりあげてきました。そうした作品はある種の遊戯性をその表面に湛えつつも、写真という媒体の在り方へと鋭く問いを差し出すものであることが、高く評価されています。本展覧会も視覚にとどまらず、思考的にも […]
2021年10月26日

前川光平個展「隣の芝は青い」

展覧会概要 本展は、主に”Yard Art”と呼ばれる奇妙な庭や軒先を記録したイメージで構成されます。 “Yard Art”(以下ヤード)とは、缶や瓶、DIY、人形などによって精巧に装飾された路上のディスプレイを指します。それは例えば奇抜なラブホテルや商品が陳列されたアンティークショップなどではなく、あくまでも一般的な人々の住み家で構築されたものです。 5年ほど前からピザ配達のアルバイトをしている作者は、配達圏内である東京と埼玉を中心とした郊外で多くのヤードを見かけてきました。 建物全体が怪獣や猫やアヒルのフィギュア・浮き輪・西洋像に囲まれたブルーの集合住宅。座席に住人の免許証の巨大コピーと「幸運」と書かれたシールが貼りつけられた軽トラックの周りに富士山の写真がグレーの外壁に一列に並んだ一軒家。「ありがとう」「花竜二がんばってる」「音楽をやってることは幸せ」「なかなか普通になれないね」など書かれた大量の段ボールに囲まれたビーナス像と土星が描かれた絵画が置かれた美容院、など。 それらの多くは住人の個人的な趣味や近所の子供を喜ばせるため、あるいは空き巣対策であると聞きますが、ただ彼らの装飾 […]
2021年10月12日

寺崎珠真個展「Heliotropic Landscape」

展覧会概要 寺崎珠真は鋭敏な感性で風景を主題とする若手写真家です。 寺崎は武蔵野美術大学を卒業した後、東京を中心に個展やグループ展、写真集の発刊など実直に発表を重ねてきました。その清新な写真群は、「自然」を単に我々の外部的な存在として単に措定するのではなく、人間や人間の活動をもその内に含み込むものとしてそれを観るような懐の深いパースペクティブに裏打ちされたものです。本展覧会では作者自身が木々の間に分け入り、精細に捉えた新作を発表いたします。 === 現在の主な探査活動の場は樹林帯へと移った。茂みの中を歩き回ると、視点の定まらないめまいのような不安感があるがずっと浸っていたい心地よさもある。錯雑の中にあっても陽は昤々として降り注ぎ、絡まり合った枝葉は反照し渾然としたものたちのざわめきが聞こえてくる。そんなとき透かさずシャッターを切ると、自ずと風景が立ち現れる。 − 寺崎珠真
2021年8月24日

桑沢デザイン研究所 羽金知美ゼミ展「日々続く道」

展覧会概要 この度桑沢デザイン研究所 羽金知美ゼミによるグループ展「日々続く道」を開催いたします。私たちの人生は先の見えない長い道です。私たちは3年間という学生生活のほとんどを2020年から続く異常な日々の中で過ごすことになりました。しかし写真を撮っていく中で、目の前にある日常の些細なことの積み重ねが私たちそれぞれの道を紡いでいることに他ならないと考えるようになりました。 今起きていることもいずれは長い道のりの途中で起きた些細な出来事になるのかもしれません。私たち7名が歩み続ける中で見つけた軌跡をご覧ください。
2021年8月17日

姫野顕司 個展「PERSEUS」

展覧会概要 姫野顕司は東京を中心に活動する写真家であり、本展覧会が姫野にとってはじめての個展となります。 これまで実直に街区での撮影活動を続けてきた姫野ですが、そうした活動はつねに写真という媒体への問いによって裏打ちされてきたといえます。本展覧会のタイトル「PERSEUS」とは、三次元的な事物を平面化することで成り立つ写真を、それぞれが異なる距離に位置する星を同一平面上で仮想的に結びつけることで成立している星座への類比として捉えることから導き出されたものです。 写真は被写体が再現前するような幻惑的なものではなく、あくまで現実に存在する事物の断片を形骸化したものであると述べる姫野の思考は、本展覧会に出展される大型のコラージュ作品からも看取することができるでしょう。 弛まず続けられた撮影行為と思考から構築された、姫野にとって初の展覧会を、この機会にぜひご覧ください。
2021年6月8日

飯田鉄 個展「あかるいかげのくに」

展覧会概要 2019年の「球体上の点列」、2020年の「ひかりの秤」に続く、当オルト・メディウムにての3回目の個展となります。今回の展示は、これまでの飯田作品のモチーフである街景・建築物などから離れ、象徴的な意匠を積み重ねて新たな写真世界をつくりあげています。繁茂する植物、海浜、空と雲、庭の一隅など、様々に撮影された作品群はきわめて鮮明でありながら、同時に謎を隠しているようにも感じられます。今回並べられた撮影作品を見渡すときに、画像のあからさまな明瞭さと同時に、何処かもどかしいような印象をも伴う不思議な展示となっています。 2020年にギャラリー・ニエプスで開催された写真展「美徳の譜」にも繋がる、ゆっくりと変容する飯田鉄の新作展をご覧いただければ幸いです。
2021年5月25日

小山貢弘個展「芽吹きの方法」

展覧会概要 小山貢弘は東京綜合写真専門学校研究科を卒業したのち、現在まで東京を中心に実直な発表活動を続けています。小山がレンズを向けてきたのは、活動の初期より一貫して、河川の流域やそこに繁茂する植物に対してでした。大型カメラを用いて得られた緻密な画面は、過剰な主観的表現が抑制されており、観る者の凝視を求めているようです。2018年以来、3年ぶりの個展となる本展覧会においても、小山が弛まずに撮り続けてきた土地や植物の姿が並びます。安易な一瞥においては差異の見出し難いそれぞれの写真は、一時たりとも変化を止めない事物の直截な記録であるとともに、小山にとっては来るべき新たな写真実践を創出するための実験の場でもあるのです。 この機会に是非ともご覧ください。 === 芽吹きの方法無数の小径がある。それは、人が通った跡なのか、獣のそれなのかは定かではない。そのうちの一本を辿って藪の中を歩き続けると、ようやく水の音が聞こえはじめる。 山梨県から東京都、そして神奈川県へと流れる多摩川には、都市部を流れる一級河川であるにもかかわらず、中流域でも護岸化されていない場所が多い。そのため河川敷には整備された土地 […]
2021年4月27日

榎本祐典個展「Yamabiko」

展覧会概要 榎本祐典は東京造形大学デザイン科写真専攻卒業後、2016年「砂塵が過ぎて」(Place M)や2019年「Around」(オリンパスギャラリー)など精力的に展覧会開催を重ねるほか、作品が清里フォトアートミュージアムに収蔵されるなど、現在まで着実な業績を重ね続けている気鋭の写真家です。デビューより一貫してスナップショットで制作されるその作品は、静謐かつ堅牢な画面構成とは裏腹に地道な歩行を伴った弛むことのない身体作業の成果でもあります。 本展覧会では2019年から奥多摩に取材した新作「Yamabiko」を発表いたします。決して特異な風景ではないのだけれども、何者かに見られているようなある種の「怖さ」を榎本はその場所と写真から感じるといいます。土地と写真家との名づけ難い交感を記録した写真群をぜひご覧ください。