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2021年5月25日

小山貢弘個展「芽吹きの方法」

展覧会概要 小山貢弘は東京綜合写真専門学校研究科を卒業したのち、現在まで東京を中心に実直な発表活動を続けています。小山がレンズを向けてきたのは、活動の初期より一貫して、河川の流域やそこに繁茂する植物に対してでした。大型カメラを用いて得られた緻密な画面は、過剰な主観的表現が抑制されており、観る者の凝視を求めているようです。2018年以来、3年ぶりの個展となる本展覧会においても、小山が弛まずに撮り続けてきた土地や植物の姿が並びます。安易な一瞥においては差異の見出し難いそれぞれの写真は、一時たりとも変化を止めない事物の直截な記録であるとともに、小山にとっては来るべき新たな写真実践を創出するための実験の場でもあるのです。 この機会に是非ともご覧ください。 === 芽吹きの方法無数の小径がある。それは、人が通った跡なのか、獣のそれなのかは定かではない。そのうちの一本を辿って藪の中を歩き続けると、ようやく水の音が聞こえはじめる。 山梨県から東京都、そして神奈川県へと流れる多摩川には、都市部を流れる一級河川であるにもかかわらず、中流域でも護岸化されていない場所が多い。そのため河川敷には整備された土地 […]
2021年4月27日

榎本祐典個展「Yamabiko」

展覧会概要 榎本祐典は東京造形大学デザイン科写真専攻卒業後、2016年「砂塵が過ぎて」(Place M)や2019年「Around」(オリンパスギャラリー)など精力的に展覧会開催を重ねるほか、作品が清里フォトアートミュージアムに収蔵されるなど、現在まで着実な業績を重ね続けている気鋭の写真家です。デビューより一貫してスナップショットで制作されるその作品は、静謐かつ堅牢な画面構成とは裏腹に地道な歩行を伴った弛むことのない身体作業の成果でもあります。 本展覧会では2019年から奥多摩に取材した新作「Yamabiko」を発表いたします。決して特異な風景ではないのだけれども、何者かに見られているようなある種の「怖さ」を榎本はその場所と写真から感じるといいます。土地と写真家との名づけ難い交感を記録した写真群をぜひご覧ください。
2021年4月13日

横澤進一 個展「クサビノ」

展覧会概要 横澤進一は、個展やグループ展、写真集など精力的に発表を続ける写真家で、近年では写真家や画家によって構成されるグループ「FŪKEI」としても展示や出版など幅広く活動しています。 また、横澤はスナップ写真を主としながらも、猫を被写体に捉えた写真の評価も高く、日本人写真家による猫をモチーフとした写真を集め、Ibasho Gallery(ベルギー)など世界各地を巡回展示した「Neko Project」で最優秀賞を獲得するなど、評価を高めています。 本展覧会は2011 年に銀座ニコンサロンで開催された『煙野』以来、1 0 年ぶりの個展となります。生まれ育った埼玉を中心として、ひたすら歩き、撮る。横澤のそうした撮影プロセスは、カメラを手にした初めより一貫して変わることなく、本展で発表される近作においても続けられています。極めてストレートな表現でありながら、遠近感が消失したようなその画面は、そこに写る個々の要素が緊密に結合して生まれた、名付けがたいひとつの像が立ち現れているかのようです。 極めて具体的でありながら、見る者の内に抽象的なイメージを呼び起こすような写真群を、この機会にぜひご覧 […]
2021年3月30日

鈴木敦子 写真展「lmitation Bijou」

展覧会概要 鈴木は1981年福井県生まれの写真家で、2008年に大阪ビジュアルアーツ専門学校写真学科夜間部を卒業。 これまで自身の体験とその外側にある世界を交差する〝内と外の境界線〟を感じさせる作品や、目の前に実在する対象を通して、その向こう側に見えてくる〝かつてその場所に在ったであろう記憶の痕跡や残像〟のようなイメージを撮影し、写真作品に投影してきました。 そんな中鈴木は、作品をつくり続けていく上で、自分にとって真実や大切なものは何かという疑問を抱くようになります。東京から故郷である福井に拠点を移す事をきっかけに、その問いを探る為、実験的にiPhoneのカメラで自身の身の周りの出来事を撮影し続け、Instagramのアカウントに〝Debris(破片)〟というタグをつけて写真を蓄積していきました。 2019年にその束を編集した写真集「Imitation Bijou」をDOOKSより刊行し、今回展示する作品はその写真集から選んだ写真になります。タイトルの「Imitation Bijou」は、「模造宝石(本物に似せてつくられた宝石)」という意味を持ちます。それは〝模造〟と提示したものに価値 […]
2021年3月16日

福本楓 写真展「最後の晩餐」

展覧会概要 私にとって食事は料理人である両親がおいしいご飯を作ってくれて、それを囲んでたくさん笑って過ごせる特別な時間である。と同時にそれは私にとっての当たり前でもある。食事をしなければいけないから何も考えずとっている人が多いが、私はそれがもったいないと思う。必要で、しなければいけない食事でも私は楽しみたいと思うし、みんなにも楽しんで欲しい。 「最後の晩餐」は、明日世界が終わるとしたら何を食べたいかを家族や知人、初対面の未来の友人等に質問し、その回答を私の中に取り込み再現し撮影しました。この質問によって普段食事に興味のない人でも“食べること”を意識した回答を出し、中でも多かったのは最後は家族と暖かい食事を食べて迎えたいという答えでした。 しかし本当に“最後”が訪れた時、もしかしたら家族の元へ帰る時間はないかもしれない、もしくは1人で食べるかもしれないし、友達と食べるかもしれない。そんな“かもしれない”場面を私なりの形で、作り上げた作品です。
2021年3月9日

「Qualities in Bodies」

展覧会概要 蔡傳基(ツァイ チェンケイ)は銀塩写真の物質性に着目し、印画紙に花火を当てることで、その光と高温がどのような記録を残すか実験しています。このプロセスでは印画紙上に具体的なイメージが残るはずがないのにもかかわらず、多くの人たちがそこに生じた像をあたかも宇宙のように見たのです。 一方、デジタル写真の非物質性に着目したNigel Wong (ナイジェル ワン)はインターネット上にあるイメージをコードに変換し、プリントアウトしました。その結果大量の紙に記された文字列は、非物質的なイメージでもコードでもなく、まるで物質の塊のようにも見えてしまいます。 本展覧会では、イメージの生成について異なるアプローチを経て制作された作品を、同じ空間内で展示することによって、新たな対話の可能性を提示いたします。
2021年2月23日

岡田翔キュレーション「error CS0246」 Vol.3 − 金村修個展「Lead-palsy Terminal」

展覧会概要  金村修は、東京の街をソリッドに撮影する写真家として国内外で人気を博しています。しかし、現在のコロナ禍において撮影された金村の写真には、これまでモチーフとして扱われてきた都市の雑踏が影を潜め、これまでに見られなかった都市の余白が浮かび上がります。  今回の展示は、今年撮影された〈廃墟〉化した空港の写真とともに、過去に金村が収めた郊外写真から会場を構成することで、都市の変容を見据えたポスト・パンデミックの芸術を思索します。 ===  この度、金村修、小松浩子、篠田優による連続個展「error CS0246」を開催します。いまだ終息の目処が立たない新型コロナウイルスは、私たちの日常生活に大きな変化をもたらしました。感染予防対策として、物理的な接触を避けるために築かれる〈壁〉の存在は、ボーダーレスを標榜して速度を求めてきたグローバリズムをそれ以前へと巻き戻そうとするものです。街の至るところで、密閉空間を避けること、集団にならないことなどの制限が求められ、感染予防対策の強化が続いています。一方、各所で導入されたテレワークは、自宅の部屋をオフィスにすることで、これまでのプライベート/ […]
2021年2月9日

岡田翔キュレーション「error CS0246」 Vol.2 − 篠田優個展「ひとりでいるときのあなたを見てみたい」

展覧会概要 現在、篠田優は壕や取り壊される美術館などをモチーフとして、そのモノに蓄積された記憶や記録の痕跡を〈記録〉しています。  今回の展示では、2013年から2016年にかけて撮影された過去作による展示構成を試みています。そこには、篠田が扱うモチーフが物質的な美しさから、現在の記憶や記録の痕跡に纏わるものへと移り変わっていく兆候をみることができます。  自身の過去作を呼び起こし、自己批判も厭わない篠田の写真に対する姿勢は、矛盾をはらみながら変化を遂げる社会に向けて自身をアップデートする試みです。 ===  この度、金村修、小松浩子、篠田優による連続個展「error CS0246」を開催します。いまだ終息の目処が立たない新型コロナウイルスは、私たちの日常生活に大きな変化をもたらしました。感染予防対策として、物理的な接触を避けるために築かれる〈壁〉の存在は、ボーダーレスを標榜して速度を求めてきたグローバリズムをそれ以前へと巻き戻そうとするものです。街の至るところで、密閉空間を避けること、集団にならないことなどの制限が求められ、感染予防対策の強化が続いています。一方、各所で導入されたテレ […]
2021年1月7日

岡田翔キュレーション「error CS0246」 Vol.1 − 小松浩子個展「自己中毒啓発」

展覧会概要  小松浩子は、写真において見過ごされてきた「物質性」を表現媒体として用いる制作を行ってきました。  壁のみならず床など展示空間全体を覆い尽くす小松の作品は、作品鑑賞における移動に伴い、床全面に敷き詰められた作品を否応なしに踏むという事態を生じさせます。このような体験は、写真の物質性と共に美術の展覧会において見過ごされてきた作品の「展示」と「保存・保護」といった矛盾した関係性を顕にしました。  今回の展示では、基本的に展示空間への入室を禁じて、展示場所の窓から作品を鑑賞するという発表形式を取っています。窓からは、出展作品である積み重なったロール紙が時間の経過とともに歪み、形を変えていくという変化を見ることができます。今回の取り組みは、「展示」と「保存・保護」といった矛盾した関係性を俯瞰する取り組みです。 ===  この度、金村修、小松浩子、篠田優による連続個展「error CS0246」を開催します。いまだ終息の目処が立たない新型コロナウイルスは、私たちの日常生活に大きな変化をもたらしました。感染予防対策として、物理的な接触を避けるために築かれる〈壁〉の存在は、ボーダーレスを […]
2020年12月22日

紀雪晗 個展「3.5 years」

展覧会概要  インターネットが発達した現代において、人の人間関係は現実からインターネット上にまで拡張された。SNSで友達を追加し、スマートフォンやパソコンで他人の状態を観察する。つまり、友人になる対象を選択する時、ネットでの情報公開と取集は既に現代の人との付き合いにおいて不可欠な過程になった。しかし、ネット上で公開できる情報は自由である。ライン、WeChatという内圏からFacebook、Weiboという公開の外圏まで、誰でもネット上では自分の“キャラ”を作ることができる。ある人はネットを舞台として理想的な自分を演じる。ある人はネット上で自分の不遇を訴える。私達はこのような“キャラ”から相手を判断し理解しているつもりになっている。  来日三年半、私は新しい人間関係を構築していた。日本語学校から大学院まで様々な人と知り合って、彼らの“キャラ”の判断をした。お互いに選択しあった何人かは本物の友達になった。私は彼らに風船をあげて彼らの“キャラ”を撮った。これらは3.5yearsの人間関係の展示である。
2020年12月1日

飯田鉄 個展「ひかりの秤 EPIPHANIA」‐庭園試論‐

展覧会概要 これまで都市の建築物や街のデティールなどを端正な視角で切りとり、加えて時間のニュアンスを巧みに掬い上げる写真などで高い評価を得ている作者ですが、今回は飯田鉄が撮影に本格的に取り組み始めた、1970年代のモノクロームのスナップショットを中心にした展示です。アルカイックな様式性を帯びたもの、静謐な叙情性に富んだもの、さらにはいささか破調も見られるものなど、瑞々しさが溢れる初期の飯田作品を展示いたします。
2020年11月24日

岩崎美ゆき個展「My Garden(2015-2020)」

展覧会概要 岩崎美ゆきは2018 年武蔵野美術大学映像学科を卒業。2017 年には第17 回「1_WALL」では奨励賞(増田玲選)を受賞。Alt_Mediumでは2019年に開催された「この海は、泳ぐためではありません」より2度目の個展となります。 岩崎はその場所に対峙し写すことと、その結果現れたものについて意識し思考を巡らせ作品を制作してきました。今回発表される作品「My Garden(2015-2020)」の舞台となったのは、岩崎の祖母、叔母、母と代々、女が手入れをしてきた実家の庭です。 ついに手を入れる人がいなくなり、文字通り“すべてを片付ける”事となった庭。その撮影行為は、岩崎にとって今まで手入れをしてきた女たちや、その女たちと庭に流れた時間、時代に思いを馳せるものではなく、ましてやこれから片付けが始まる庭への記録的行為でもありませんでしたが、岩崎は自ら撮影したその写真によって「私の庭」を感じたと話します。 記録や記憶と結びつきやすい写真というメディアにおいて、岩崎は鑑賞者の前にある「写真」と、そこに映る情景に思いを馳せようと試みる鑑賞者との関係性を「私の庭」から見つめています […]
2020年11月10日

田川基成写真展「Vernacular Churches」

展覧会概要 長崎県の離島出身の写真家・田川基成は、自身のルーツや様々な土地で暮らしてきた経験から、移民と文化、風景と記憶などをテーマに作品を撮ってきました。 田川は2016年頃から、自身の故郷に目を向けはじめます。そして、約600もある島々の間を幾度にもわたって旅し、この海域をフィルムに写してきました。その対象は、風景から人物まで多岐に渡っています。 本展ではその「見果てぬ海」シリーズの中から、とくに長崎県の離島に多い「土着のキリスト教会」のありようを捉えた作品群を展示します。 === 長崎県の離島には約70のカトリック教会が存在します。その多くが、瓦や木材などを使った土地固有の建築様式で造られた教会です。古いものでは100年以上前に建てられ、地域の信徒によって代々守られてきました。 16世紀、この海域にポルトガル船が初めて来航すると、宣教師による布教が行われ、各地にキリスト教徒が増えていきました。江戸時代の禁教政策によって信徒の数は減りましたが、中には潜伏キリシタンとして隠れ、あるいは海を渡って弾圧を逃れ、信仰を後世に伝えた人々がいました。 それから250年以上が経った明治初頭。禁教 […]
2020年10月6日

田近夏子個展「二度目の朝に」

展覧会概要 田近夏子は1996年生まれ岐阜県出身の新進作家です。田近は東京工芸大学芸術学部写真学科在籍中に、塩竈フォトフェスティバル2018に於いて本作「二度目の朝に」で写真賞大賞を受賞しました。 この度開催される同タイトルの展覧会は田近による初の個展となります。また、会場では塩竈フォトフェスティバル写真賞大賞の副賞によって制作された初の写真集を発売いたします。 夏が始まるころ愛犬が亡くなったお風呂場は、奇しくも田近が3歳の頃に目の前で亡くなった祖父の最後と同じ場所でもありました。 愛犬の死を知らせる母からの連絡により、幼い頃の曖昧な記憶と今回の出来事が“お風呂場”を通して交わるように感じたと、田近は語っています。 本作からは身近なものを失っても流れゆく日々の中で、ふとした瞬間に、たゆたう記憶のきっかけを掴み取るような眼差しを感じさせます。 この機会にどうぞご高覧ください。 === 二度目の朝に 夏が始まる頃、実家の愛犬が亡くなった。息を引き取った場所はお風呂場。其処は3歳の私の目の前で祖父がなくなった場所だった。 前日までいたその場所から連絡がはいる。「30分ほど前になくなりました」 […]